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2016年5月23日 (月)

中国の戦略、日本の無策?

(某誌に寄稿したものです)

アフリカの現在―中国の戦略・日本の無策?

 

現在、アフリカ大陸に在住する日本人は多く見て1万人以下。これに対して中国人は少なく見積もっても100万人以上と言われる。アフリカで官民ともに圧倒的なパワーで存在感を示す中国に比べ、日本の姿は悲しいほど見えてこない。街に走る車は日本車も多いが、日本のプレゼンスはほとんどない。

中部アフリカの某国を訪れると、外務省の廊下の消火栓には「北京消防」の赤い文字が躍っていた。外務省の建物は100%中国からの援助で建てられた。当然、機器の納入もすべて中国企業が行ったのであろう。

同省のアジア・オセアニア局長は、「中国はサイレントパートナー」と表現した。日本から来た我々に気を使っての発言であろう。中国は建物や道路など、「見えない」ところで支援してくれているという。

しかし中国は決して「サイレント」ではない。援助だけをみても中国政府による農業技術センターがオープンし、それ以前から稲作指導も継続的に行われている。首都には孔子学院が設立され中国語の授業中である。中国への無償留学生は年間60人以上。中国の援助で病院も建設中だ。

中国は十分に「見える」援助を行っているのである。中国の農村に滞在したことのある学生が、「中国の道路よりこちらのほうがずっといい」と笑っていたのが印象的だった。

ビジネスも拡大中だ。中国大使館前の現場では、香港企業によって140人の中国人と同数の現地人を使ってのホテル建設作業が行われていた。

もちろんこれは某国だけで起こっていることではない。アフリカ各国で同じような中国のプレゼンスがある。そこには何としても経済発展を続けねばならない中国のしたたかな戦略がある。

リーマン・ショック以後の中国による途上国融資は世界銀行のそれを上回ったとさえいう。中国のアフリカ向け輸出額は、旧宗主国のフランス、イギリスなどを既に抜いている。アフリカ開発銀行の融資に占める中国企業の受注率も4割を超える。これには、土木系のインフラ整備で、中国の農村から低賃金労働者を連れてくる中国企業が低コストで受注できてしまうという背景もある。

 

「援助はもういい。今、我が国が欲しいのは投資(investment)だ」。これは日本に駐在するアフリカの外交官からよく聞かれるセリフだ。

中国はその期待によく応えている。在アフリカの中国大使館では、中国とアフリカ諸国の関係は、「ウィン・ウィン(Win Win)」であると説明された。発展途上国である中国とアフリカは、価格やスペックの面でお互いに利益がある取引ができるという意味であろう。逆に、高価格の日本企業はいくら厳密な管理や高い品質でも引き合わないということだ。

 

中国とアフリカとの中心的な役割を担っているのが、中国アフリカ協力フォーラム(FOCACForum on China –Africa Cooperation)である。2000年に設立された同フォーラムは、3年ごとに開催されている。中国企業のアフリカ投資をサポートするための基金設立も盛り込まれている。低利融資をはじめとするアフリカの中小企業に対する中国金融機関の援助、アフリカの低開発国からの輸入品に対する関税障壁の95%に上る除去なども約束している。

 

CCTV(中国中央電視台)は2012年よりアフリカで英語によるTV放送を開始している。「本当のアフリカを伝える」「アフリカの前向きな面を報道する」とアフリカの14都市に特派員を配置、スタジオを置いたケニアのナイロビでは100人の現地スタッフを雇用した。

BBCCNNなどと並んで、自前のメディアでアフリカに進出しようとする試みである。これらを通じて「自国のことしか考えていない」といった中国に対する批判を回避し、イメージ改善を図ることが目的だ。新華社通信による現地新聞社への情報提供も行われている。

 

中国のアフリカ進出の背景には、もちろん資源獲得という目論見がある。同時に輸出先としてアフリカ市場を確保し、中国の経済成長によりアフリカの成長を達成する(あるいはアフリカの成長により中国が恩恵を受ける)という目標がある。加えて国際社会での「応援団」形成の意味もあろう。文字通り官民一体となったアフリカ進出である。

 

筆者が大学院で指導していた中国人の女子学生が、修了後帰国して結婚するという。「お相手は?」と聞くと、建設会社に勤務するビジネスマンで赴任地はナイロビとのこと。アフリカに行く中継地のドバイやカタールの空港の免税品店は、きっちりとネクタイを締めた中国人ビジネスマンで溢れている。

山崎豊子さんの小説『沈まぬ太陽』がテレビドラマ化された。巨大組織に立ち向かう主人公はアフリカに「左遷」される。しかし、いまやアフリカは左遷される僻地ではない。国際政治・経済の最前線なのだ。

良し悪しは別にして、中国は次々と布石を打っている。米国や欧米諸国も鎬を削る。何もすべて中国の「後追い」をする必要はない。8月には初めてケニアのナイロビでTICADが行われる。日本らしく、我が国の国家戦略として「アフリカに日本の本気をどう伝えるか」という大きな課題が残されているのだ。

(以上)

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