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2016年6月21日 (火)

国家というアイデンティティ―英国のEU離脱?

EU離脱をかけた英国国民投票の前に(某紙に寄稿したものです)

 

「あなたは誰ですか?」。そう聞かれたら何と答えますか?「私はサラリーマンです」「私は母親です」「私は関西人です」などさまざまな答えが考えられます。「私は日本人(中国人、タイ人…)です」というのも多いでしょう。

 

「自分が自分であるもの」(自己同一性)をアメリカの心理学者エリクソンはアイデンティティと名付けました。アイデンティティには職業、役割、地域や団体などがあげられます。所属している国家も国際政治的に重要なアイデンティティです。

 

623日にイギリスで「EU(欧州連合)に残留すべきか、離脱すべきか」を問う国民投票が行われます。「あなたは欧州人か」「あなたはイギリス人か」という二者択一でアイデンティティが問われるわけです。

 

島国のイギリスは大陸のヨーロッパとは一線を画してきました。EUの単一通貨ユーロではなく、ポンドを通貨として用いていますし、他の加盟国と違って国境審査も廃止していません。

 

EU加盟に伴う負担を減らし、移民の流入を制限でき、雇用の拡大やテロを防ぐことができるというのが離脱派の言い分です。一方で離脱すればロンドンの金融街シティは大打撃を受け、貿易にも悪影響が出て経済的に大きなマイナスをこうむるというのが残留派の主張。世論調査を見ても賛否は拮抗しており、最後まで読めません。

 

EUは現在28か国が加盟していますが、過去に離脱した国はありません。イギリスが離脱した場合、世界株安、相対的に安全資産とされる円への逃避(円高)など、むしろ英国以外の世界経済への影響が大きいでしょう。

 

国際政治という舞台で活躍する役者のことをアクター(行為体)といいます。国際機関、多国籍企業、NGO(非政府行為体)などさまざまなアクターが舞台に登場しますが、最も重要で数の多いアクターは、いうまでもなく主権国家です。その国家の主権の一部(関税、通貨など)を統合したのがEU(欧州連合)の試みでした。「国家」「欧州」どちらのアイデンティティが選択されるのでしょうか。

 

アメリカの国際政治学者サミュエル・ハンチントンによれば、冷戦時代は「(米ソ)どちらの味方なのか」という問いが一番重要でした。しかし冷戦後は、「われわれは何者か?」、「われわれはどこに所属しているのか」、「われわれと違うのはだれか」と言った基本的なことが問いかけられるようになったといいます。

 

612日未明、米フロリダ州オーランドで、49人が死亡、100人以上の死傷者が出る米国史上最悪の銃乱射事件が起きました。犯人はIS(いわゆるイスラム国)に忠誠を誓っていたと報道されています。米国生まれの若者が祖国で起こしたテロ事件に捜査当局もなすすべがありません。主権国家以外の存在(「想像上の国家」とでもいうのでしょうか)に帰依したアイデンティティが悲劇を巻き起こしたのです。

 

21世紀は「私は誰なのか」というアイデンティティが問われる時代です。「国家というアイデンティティ」は様々な方面から問い直されています。

 

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