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2016年7月 7日 (木)

デモクラシーの原点とは?―参議院議員選挙の前に

「デモクラシーの原点とは」(某紙に寄稿したものです)

 

東京都知事を巡る一連のドタバタを見て、「選挙でリーダーを選ぶ」というデモクラシー(日本では民主主義と訳されています)を疑わしく思っている人も多いのではないでしょうか。

デモクラシーは手続きに時間がかかるなど欠陥もあるし、必ずしも正しい判断をするとは限らないことは歴史が証明しています。辛らつに定義するならば、「デモクラシーとはイエス・キリストを磔にし、ヒトラーを生んだ政治制度のこと」でもあります。
 聖書によれば「あの人(イエス)がどんな悪いことをしたというのか」と問うローマ総督ピラトに対して、「十字架につけろ」と叫び続けた(マタイによる福音書2723)のは民衆による「民意」でした。また、ワイマール共和国という、第1次大戦後もっとも民主的な体制から、ナチス・ドイツが生まれてきたこともよく知られています。


 近い将来、さらにデモクラシーの定義に「トランプを米大統領にしたシステム」というのが付け加わるかもしれません。

大統領選当初は泡沫候補扱いだった大富豪ドナルド・トランプ氏が共和党の指名を確実にしました。過激な発言で反発が強いのはご存知の通りです。日米安保の廃棄を唱えるなど「本気か」と思う発言も少なくありませんが、民主党のヒラリー・クリントン氏の人気もいま一つで、日本に与える影響は大きい。

世界的に見ても、デモクラシーは3つのレベルで大きな曲がり角にあります。

途上国においては、選挙が行われたとしても何ら問題の解決につながらない、形式的な選挙は無意味だという「デモクレイジー」(ポール・コリアー・オックスフォード大学教授)があります。

先進国では、政治学者フランシス・フクヤマの言う「ビート(Veto:拒否権)クラシー」、つまり権力が分散して政府が重要な決定を出来ない状況にあります。投票率の低下による選挙の有効性への疑問や政治の無力化がこれに拍車をかけています。

一方で権威主義国家は、意思決定において少なくとも効率的ではありえます。ロシア、中国などこれら非民主的な国家の台頭、挑戦が3番目の問題です。

チャーチルに「選挙とはろくでもない人のなかから少しでもましな人を選び続ける忍耐そのものをいうのである。だからデモクラシーは最低の仕組みである。ただし、王政や貴族政、皇帝制など人類のこれまでの政体を除いては」という、いささか皮肉なセリフがあります。

彼のセリフは「デモクラシーとは、いろいろ問題はあるがもっとも過ちの少ない制度だ」という肯定的な解釈をされるべきであろうと思います。私たちはやはりデモクラシーを信じ、「ろくでもない人」ではなく「ましな人」を選びたい。

現状に対する「恨み」を鼓舞するような過激な発言、あるいはただ「有名だから」「テレビで見たから」という理由ではなく、「一人の人間として信頼できる」候補者を選ぶこと。デモクラシーの復活は、やはり原点回帰にあるのではないでしょうか。

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